2025.09.02 循環器の病気
高血圧の原因と治療法をわかりやすく解説【医師監修】
日本では成人の約3人に1人が高血圧と診断されているといわれています。高血圧は自覚症状がほとんどないため、放置されがちですが、心臓病や脳卒中などの重大な疾患のリスクを高める「沈黙の病気」とも呼ばれています。この記事では、高血圧の原因や分類、治療法までをわかりやすく解説し、日常生活の中でできる対策も紹介します。
高血圧とは何か?
高血圧とは、血管にかかる圧力(血圧)が慢性的に高い状態を指します。診断基準としては、一般的に診察室で測定した収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上の場合、高血圧とされます。
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※出典:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」
最近では130mmHg台でも「高値血圧」や「予備軍」とされ、生活習慣の見直しが強く推奨される段階とされています。
米国のガイドライン(ACC/AHA)では、130/80mmHg以上を「高血圧(Stage 1)」と診断するため、日本よりも早期介入が推奨されています。
家庭血圧で130mmHgを超える場合は、将来的な高血圧への移行リスクが高いため注意が必要です。血圧は一時的に変動することがありますが、継続的に高い状態が続くと血管や臓器への負担が増し、様々な疾患を引き起こす可能性があります。
降圧目標(高血圧治療ガイドライン2019)は以下の通りです。
ただし、最新の高血圧学会のガイドラインでは75歳以上の降圧治療目標をさらに厳格化することが提唱され、年齢に関係なく130/80mmHg未満が目標と定められています。
高血圧の原因
高血圧には「本態性高血圧」と「二次性高血圧」の2つのタイプがあります。
本態性高血圧(約90%)
「本態性」とは、明確な疾患の原因が特定できない高血圧を指します。ただし、原因不明とはいえ、生活習慣や遺伝的要因が複雑に関与していると考えられています。
本態性高血圧は複数因子が積み重なって進行するため、生活習慣の改善が非常に重要です。初期段階では薬の使用を避け、食事・運動療法で様子をみることが多いです。
- 遺伝的素因
両親や兄弟が高血圧の場合、発症リスクが高まる - 加齢
年齢とともに動脈が硬化し、血圧が上昇しやすくなる - 塩分摂取過多
ナトリウムが体内に蓄積すると血管収縮が強まる - 肥満
特に内臓脂肪が増えると交感神経が活性化し、血圧上昇につながる - ストレス
持続的な緊張はホルモン分泌や血管収縮を促進 - 運動不足・飲酒・喫煙
いずれも血圧を高める生活習慣因子
二次性高血圧(約10%)
腎疾患やホルモン異常など、明確な疾患に起因するタイプです。若年層や急激な血圧上昇がある場合は、二次性高血圧の可能性も考慮されます。
別の病気が背景にある場合は、それに応じた治療が必要になります。
- 腎疾患(腎動脈狭窄、慢性腎炎など)
腎臓が血圧調整ホルモンを過剰分泌することで血圧上昇 - ホルモン異常(原発性アルドステロン症、褐色細胞腫など)
内分泌腺の異常で血管収縮や水分貯留が起こる - 睡眠時無呼吸症候群
睡眠中の酸素低下が交感神経を刺激し、慢性的に血圧が上がる - 薬剤性高血圧
ステロイド、鎮痛薬などが血圧に影響することも - 妊娠高血圧症候群
妊娠中の血圧上昇は母体・胎児ともにリスクが高く管理が必要
高血圧リスク!こんな生活習慣の人は要注意
高血圧によってリスクが高まる主な疾患一覧
なぜ高血圧が、リスクを高めるのか?
高血圧がこられの疾患リスクを高める理由は、血管に持続的な負担がかかり、体の重要な器官に悪影響を及ぼすからです。
血圧が高い状態が続くと、血管の内側の壁(血管内皮)が傷つきやすくなり、やがて動脈硬化が進行します。これによって血管が硬く狭くなり、心臓や脳、腎臓などへ流れる血液が妨げられるのです。たとえば脳なら脳梗塞や脳出血、心臓なら心筋梗塞や心不全、腎臓なら慢性腎不全や透析の必要性に至ることもあります。
また、心臓は高血圧によって常に強い圧力に逆らって血液を送り出さねばならず、心肥大やポンプ機能の低下といった変化が起こります。これが進むと、軽い運動でも息切れや疲れを感じる「心不全」につながります。
高血圧が怖いのは、これらの変化が症状のないまま静かに進行する点。気づいたときにはすでに重大な疾患を発症していることもあります。だからこそ、日常的な血圧管理と生活習慣の改善が大切なのです。
高血圧の治療法
高血圧の治療は、生活習慣の改善と薬物療法の2本柱で行っていきます。
STEP1 生活習慣の改善
①減塩(食塩制限)
1日6g未満を目標に、減塩調味料、出汁の活用、外食・加工食品の見直しを行います。収縮期血圧を約5〜7mmHg低下させるという報告もあり、食塩制限は高血圧対策に効果が期待できます。
②体重管理(適正体重の維持)
BMIが25未満を目指し、運動習慣を心がけましょう。肥満の方は食事量も多く塩分摂取量が多くなりがちです。また、肥大化した脂肪細胞から分泌されるアンギオテンシノーゲンが血管を収縮させて血圧を上げますし、血液中の資質が多いと血液がドロドロになり血圧上昇につながります。
③禁煙・節酒
たばこが血圧上昇につながるのには複数の要因がありますが、ニコチンが交感神経を活性化し、アドレナリンの分泌を促進します。これにより、心拍数が増加し血管が収縮して血圧が上昇します。
飲酒については、アルコールの代謝過程で血管収縮物質が生成されて血管が狭くなります。また、利尿作用で体内水分が減少し、血液粘度が上がるので血圧が上がりやすくなります。
ですので、喫煙する方が飲酒すると相乗効果で高血圧のリスクが大幅に上がります。
禁煙・節酒を心がけ、深酒をさけましょう。
④ストレス管理
ストレスを感じると交感神経が優位になり、アドレナリンやノルアドレナリンが分泌されます。それにより心拍数が上昇し、血管が収縮し血圧が上昇します。
趣味や休養を取り入れリラックスし、ストレスを和らげるようにすることが大切です。
このように、生活習慣の改善は薬を使わずに血圧を下げる可能性があり、長期的な予防にも有効です。
STEP2 高血圧の薬物療法
高血圧の薬物療法で用いる薬剤にはいくつかの種類があります。それぞれ詳しくみていきましょう。
①Ca拮抗薬
Ca拮抗薬は、血管平滑筋にカルシウムイオンが流入するのを阻害することで、血管を拡張し血圧を下げる薬です。カルシウムは筋肉の収縮に関与しているため、その流入を抑えることで血管が広がり、血圧が下がります。
②ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
ARBは、アンジオテンシンⅡという血圧を上げる物質の働きをブロックする薬です。具体的には、アンジオテンシンⅡが結合する「AT1受容体」を遮断することで、血管収縮やアルドステロン分泌などの作用を抑え、血圧を下げます。
③ACE阻害薬
ACE阻害薬は、アンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡに変換する酵素(ACE)をブロックする薬です。アンジオテンシンⅡは血管を収縮させ、血圧を上げる作用を持つため、その生成を抑えることで血圧を下げます。
④利尿薬
腎臓の尿細管に作用して、ナトリウム(塩分)と水分の再吸収を抑え、尿量を増やす薬です。これにより、血液量が減少し、血圧が下がる・むくみが改善する・心臓や腎臓の負担が軽減されるなどの効果があります。
⑤β遮断薬
β遮断薬は、交感神経のβ受容体をブロックすることで、心拍数や心収縮力を抑え、血圧を下げる薬です。特に心臓に多く存在する「β₁受容体」に作用することで、心臓の負担を軽減します。
これらの高血圧の治療薬については、患者の年齢・併存疾患・病態・副作用リスク・生活背景などを総合的に判断して使い分けしていきます。
症状や合併症の有無、体質に合わせて薬を処方していきますので、自己判断で薬の使用を中断しないように注意してください。
高血圧の薬は飲み続けないといけない?
高血圧の薬は、基本的に飲み続ける必要があることが多いです。というのも、高血圧は一時的な症状ではなく、慢性的に血管に負担をかける病気だからです。薬はその負担を減らし、脳卒中や心臓病、腎臓障害などの重大な疾患を予防するための大切な手段です。
とはいえ、生活習慣の改善によって血圧が安定し、医師の判断で薬の量を減らしたり、場合によっては中止することも可能です。
例えば、塩分を控えたり、適度な運動を続けたり、体重を落とすことで、血圧が自然に下がることがあります。ですが、それには定期的な診察と血圧のチェックが欠かせません。
注意したいのは、薬を自己判断でやめてしまうと、血圧が急に高くなって脳卒中や心筋梗塞などのリスクが一気に高まる可能性があることです。そのため、もし「薬をやめたい」と思った時は、必ず医師に相談するのが大切です。生活習慣を整えて様子を見ながら、医師と一緒に薬の調整をしていくことが、安全な減薬への近道になります。
まとめ
高血圧は日常の小さな積み重ねによって予防・改善が可能な病気です。定期的な血圧測定と生活習慣の見直しを通じて、「無症状の危険」をコントロールし、心身ともに健やかな毎日を目指しましょう。
患者さん自身が「知ること」「意識すること」で、病気との向き合い方は大きく変わります。あなたの未来のために、今日から一歩踏み出してみませんか。
尼崎市の兵頭内科眼科・ハートクリニックに気軽にご相談ください。
筆者情報
- 兵頭内科眼科・ハートクリニック
- 院長:兵頭 永一(ひょうどう えいいち)
- 1998年3月大阪市立大学医学部卒業
資格・専門医資格
- 日本循環器学学会認定 循環器専門医
- 日本内科学会認定 認定内科医・総合内科専門医
- 日本超音波医学会認定 超音波専門医
- 日本脈管学会認定 脈管専門医
- 下肢静脈瘤血管内焼灼術実施・管理委員会認定 血管内レーザー焼灼術実施医・指導医
- 日本心エコー図学会認定心エコー図専門医
- 身体障害者福祉法指定医(心臓)
- 医学博士







