2025.10.03 代謝・内分泌の病気
糖尿病治療薬の進化で変わる生活|知っておきたい新常識
糖尿病治療は"薬だけ"じゃない時代へ
糖尿病は、本人だけでなく家族にも大きな影響を与える慢性疾患です。食事制限、運動習慣、定期的な通院――日々の生活の中で、気をつけるべきことが多く、時に「治療=我慢」と感じてしまう方も少なくありません。
しかし近年、糖尿病治療薬は大きく進化しています。
週1回の投与で済む薬、血糖値だけでなく心臓や腎臓も守る薬、スマホと連携して服薬管理をサポートするアプリなど、治療は「生活に寄り添うもの」へと変わりつつあります。
このコラムでは、最新の糖尿病治療薬がもたらす生活の変化を、患者さんとご家族の視点でわかりやすく解説します。
「薬が変わると、暮らしも変わる」――そんな新常識を、一緒に見つけていきましょう。
- 糖尿病治療薬の進化ポイント|何がどう変わった?
- 糖尿病治療薬が変える"暮らし"|患者・家族のリアルな声
- 糖尿病治療薬の選び方|医師とどう相談すればいい?
- これからの糖尿病治療|"自分らしく生きる"ために
- 未来の糖尿病治療|臨床試験中の注目薬と技術
- 終わりに|"治療"は、あなたらしく生きるための手段です
糖尿病治療薬の進化ポイント|何がどう変わった?
糖尿病治療薬は、単に「血糖値を下げる」だけの存在から、生活の質(QOL)を高めるパートナーへと進化しています。ここでは、最近の治療薬がどのように変わったのか、注目すべきポイントを紹介します。
投薬方法の選択肢が広がった|"毎日"から"週1回"へ
従来の糖尿病治療薬は、毎日服用する錠剤やインスリン注射が主流でしたが、近年は「週1回の投与」で済む薬剤が登場し、患者さんの負担が大きく軽減されています。
週1回の注射薬(GLP-1受容体作動薬)
トルリシティ®(デュラグルチド)
自己注射が可能なペン型製剤。食後の血糖上昇に合わせてインスリン分泌を促すため、低血糖リスクが低く、体重減少効果も期待される。
マンジャロ®(チルゼパチド)
GLP-1とGIPの両受容体に作用する新しいタイプ。週1回の皮下注射で血糖値をコントロールしながら、食欲抑制や体重減少にも寄与。
アウィクリ®(インスリン イコデグ)
世界初の週1回投与型インスリン。基礎インスリンとして1週間分をカバーし、毎日の注射から解放される選択肢。
週1回の内服薬(DPP-4阻害薬)
ザファテック®(トレラグリプチン)
世界初の週1回投与型DPP-4阻害薬。毎日服用する薬と同等の血糖降下作用を持ち、飲み忘れリスクを軽減。
マリゼブ®(オマリグリプチン)
腎臓での再吸収により体内循環が長く続き、週1回の服用で安定した効果を発揮。
患者さんの声から
「毎日飲むのがストレスだったけど、週1回の注射に変えてから気持ちがラクになった」
「通院のたびに注射してもらってた母が、自分で打てるようになって自信がついた」
このように、薬剤の進化は「治療の継続性」や「患者さんの自立」にもつながっています。
糖尿病治療薬が変える"暮らし"|患者・家族のリアルな声
新しい治療薬は、単に血糖値をコントロールするだけでなく、患者さんの「日常」そのものを変えています。
「母が自分で注射できるようになった」
以前は毎回通院してインスリン注射を受けていた母が、トルリシティ®に変えてからは週1回、自宅で自分で打てるようになりました。
最初は不安そうでしたが、ペン型のデバイスが使いやすく、今では「自分でできることが増えた」と嬉しそうです。
「仕事と治療の両立がラクに」
営業職で外回りが多く、毎日の服薬管理がストレスでした。
ザファテック®に変えてからは週1回の服用で済むので、飲み忘れの不安が減り、仕事に集中できるようになりました。
「家族の安心感が違う」
父が低血糖で倒れたことがあり、家族全員が不安を抱えていました。
最近は低血糖リスクの少ないGLP-1受容体作動薬に切り替え、血糖値も安定。
「今日は大丈夫かな」と心配する日が減り、家族の会話も明るくなりました。
このように、薬の進化は「治療の質」だけでなく「生活の質」も高めています。
糖尿病治療薬の選び方|医師とどう相談すればいい?
糖尿病治療薬は種類が豊富で、それぞれに特徴があります。だからこそ、医師との相談がとても重要です。ここでは、納得できる治療を選ぶためのポイントを紹介します。
治療薬を選ぶ際に大切なのは、医師との対話を"任せる"から"共有する"関係へと変えていくことです。まず、自分の生活スタイルや治療に対する不安・希望を率直に伝えることが、より適切な薬を選ぶ第一歩になります。たとえば「毎日決まった時間に薬を飲むのが難しい」「通院頻度を減らしたい」「注射が怖い」など、些細なことでも遠慮せず話すことが大切です。
そのうえで、医師と相談する際にはいくつかのポイントを意識すると、より納得感のある選択につながります。投薬頻度については「週1回の薬に変更できるか」、副作用については「低血糖のリスクはあるか」、体重への影響や合併症との関係なども、具体的に確認しておくと安心です。
最近では、スマートフォンアプリで血糖値や服薬状況を記録し、それを医師に見せながら話すことで、より個別化された治療提案を受けやすくなっています。
また、医師だけでなく薬剤師や看護師も、服薬の工夫や生活面のアドバイスをしてくれる心強い存在です。治療に関する悩みや不安は、チームで共有することで、より安心して前向きに治療に取り組むことができます。
これからの糖尿病治療|"自分らしく生きる"ために
糖尿病治療は、もはや「病気と闘う」だけのものではありません。薬の進化によって、患者さんが"自分らしく生きる"ための選択肢が広がっています。
週1回の投与で生活のリズムを崩さずに済むこと。副作用の少ない薬で安心して外出できること。スマホで血糖値を管理しながら、医師と情報を共有できること。これらはすべて、患者さんが「病気に縛られない日常」を取り戻すための手段です。
そして何より、治療を通じて「自分の体と向き合う力」や「家族との絆」が深まることもあります。糖尿病という病気は、確かに一生付き合っていくものかもしれません。でもその付き合い方は、技術の進化とともに、もっと優しく、もっと前向きなものへと変えていけるのです。
これからの糖尿病治療は、「薬を使う」ことではなく、「自分らしく生きる」ことを支える医療へと変わってきています。
兵頭内科眼科・ハートクリニックでも、患者さんのライフスタイルに寄り添い、QOLを高める治療を行ってまいります。
未来の糖尿病治療|臨床試験中の注目薬と技術
糖尿病治療は今も進化の途中。現在臨床試験中の新薬や技術には、これまでの常識を覆す可能性を秘めたものがいくつもあります。
週1回投与型インスリン「Efsitora(エフシトラ)」
Efsitora(エフシトラ・アルファ)は、従来の「1日1回投与型インスリン」に代わる新しい選択肢として開発された、週1回投与型の基礎インスリン製剤です。2025年のアメリカ糖尿病学会(ADA)で発表されたQWINT試験シリーズにより、その有効性と安全性が注目を集めています。
この製剤は、Fc結合型インスリンアナログという特殊な構造を持ち、体内での分解を遅らせることで最大196時間という長い半減期を実現。これにより、週1回の投与で安定した血糖コントロールが可能となります。
Efsitoraは、糖尿病治療における「継続のしやすさ」と「生活の質向上」を両立する革新的な選択肢として、今後の実用化が期待されています。
膵β細胞を再生する新規ペプチド Betagenin(ベータジェニン)
糖尿病治療の根本的な課題のひとつは、インスリンを分泌する膵β細胞の減少です。これまでの治療薬は、残されたβ細胞の働きを補うことが中心でしたが、β細胞そのものを「再生」するアプローチは実現されていませんでした。
そんな中、埼玉医科大学・筑波大学・順天堂大学などの共同研究グループが発見したのが、消化管由来の新規ペプチド「Betagenin(ベータジェニン)」です。
Betageninは、消化管特異的に発現する遺伝子「Tm4sf20」に由来するペプチド断片で、以下のような二重の作用を持ちます:
膵β細胞の増殖促進
糖尿病モデルマウスにBetageninを強制発現させたところ、膵β細胞量が最大4倍近くまで回復。
インスリン分泌の増強
ヒトおよびマウスの膵島において、インスリン分泌が顕著に増加。
アポトーシス(細胞死)の抑制
β細胞の寿命を延ばし、機能維持に貢献。
現在は動物モデルでの検証段階ですが、Betageninは糖尿病の病態そのものを改善する可能性があると示されました。特に、β細胞の再生という点では、1型糖尿病にも応用できる可能性があり、再生医療との融合も期待されています。
終わりに|"治療"は、あなたらしく生きるための手段です
糖尿病という病気は、確かに日々の生活に多くの工夫や注意を求めます。ですが、治療薬の進化は、そんな日常を少しずつ、確実に変えてくれています。
週1回の投与で済む薬、低血糖の不安を減らす薬、スマホと連携して管理できる薬――それらはすべて、「あなたの生活に寄り添うため」に生まれてきたものです。
糖尿病治療は、我慢や制限の連続ではなく、「自分らしく生きる」ための選択肢のひとつ。
そしてその選択は、患者さんだけでなく、支えるご家族にとっても、安心と希望につながるものです。
これからも、医療は進化し続けます。あなたの声が、医師との対話が、そして家族との絆が、その進化を支える力になります。
糖尿病とともに歩む日々が、少しでも穏やかで、前向きなものになりますように。
また、糖尿病ではないかと気になる症状でご不安な方は、尼崎市の兵頭内科眼科・ハートクリニックに気軽にご相談ください。
筆者情報
- 兵頭内科眼科・ハートクリニック
- 院長:兵頭 永一(ひょうどう えいいち)
- 1998年3月大阪市立大学医学部卒業
資格・専門医資格
- 日本循環器学学会認定 循環器専門医
- 日本内科学会認定 認定内科医・総合内科専門医
- 日本超音波医学会認定 超音波専門医
- 日本脈管学会認定 脈管専門医
- 下肢静脈瘤血管内焼灼術実施・管理委員会認定 血管内レーザー焼灼術実施医・指導医
- 日本心エコー図学会認定心エコー図専門医
- 身体障害者福祉法指定医(心臓)
- 医学博士







